別に僕は何でもな医師。

中堅内科医の独り言

ALS

ALS患者の嘱託殺人において被告が無罪を主張

「願いかなえるためだ」ALS患者嘱託殺人初公判 医師は無罪主張 | NHK | 事件

 

私は安楽死尊厳死という考えに否定的ではないが、その判断は厳正に行う必要がある。

患者自身の意思が優先されるべきだという気持ちはあるが、残された家族の思いも大切だと思う。

もちろん家族の「絶対生きて欲しい!」という気持ちを押し付けることはあってはならないが、家族と意見の交換もせず、いきなり現れた医者に大事な子どもの命を奪われたとなると納得はいかないだろう。

 

ALSのみならず、今後慢性疾患が増えていくにつれてこの手の話題も増えてくるだろう。福生病院での透析中止事件も記憶に新しい。

先日このブログでも書いた(人はどのように死を迎えるのか。 - 別に僕は何でもな医師。 (hatenadiary.jp))が、慢性心不全、慢性腎不全患者が爆発的に増えている昨今、点滴による強心薬や透析のサポートなしには生きていけないとなった場合に、どのように治療をやめていくか。

 

安楽死尊厳死とまではいかないが、治療強化で起きうる弊害もあるため、現場ではある程度の上限を設け、自然な形で看取るということは多々経験する。

昇圧剤・強心薬はこれ以上増やさない、透析についても血圧が保てる範囲で行う、呼吸器の設定もこれ以上は上げない、など。

 

その際に家族とトラブルになるケースは私は経験したことはないが、それは医療者と家族と患者間で十分に話し合いがなされた上での結果だからであろう。

一人だけで生きていくことが困難であるように、「死」に対しても一人で向き合うものではない。

医師は患者の気持ちを叶えるためだというが、今回の事件は家族の気持ちが置き去りにされてしまっている。

家族の思いはどうなのか、最期を迎えるとしても家族や友人との時間は不要なのか、現在の精神状態が一時的に不安定なだけではないか、普通は当たり前にこういった思いが出てくるはずだと思うが、患者が死にたいといっているから死なせてあげた、というのはあまりにも安直である。

ニュース上でしか見ていないので事件の全貌をわからない私がいうことではないかもしれないが、医師の前に人として何か欠落しているように感じてしまう。